肩関節周囲炎に関する情報その2。四十肩、五十肩と呼ばれる症状にはどのような骨、筋肉が関わっているか理解すると対策に役立ちます。前回は関節を中心に構造について解説しました。
肩関節を構成するのは、骨と筋肉だけではないですが、メインとなりますので、今回は関節を動かす筋肉まわりのことについて整理してみます。
筋肉の分類
筋肉もいくつかの種類に分類することができます。解剖学的分類として構造的、機能的に分類することができます。
構造的分類
インナーマッスル(inner muscle)
主に身体の深層に位置する筋肉として深層筋と言われています。逆に身体の表層部の筋肉についてはアウターマッスルと言われます。インナーマッスルはメインで骨などを動かすものではないため、トレーニングする場合には、弱い力で、筋肉を意識して動かすことが必要になります。「体幹を鍛える」などいう場合は、インナーマッスルの一部で、胴体部分のインナーマッスルを指すことが多いです。インナーマッスルは関節や姿勢の維持などに役立ち、アウターマッスルと協働して働くため、ぱっと見た目で意識できない割に重要な筋肉群です。
- 腹部、背中周辺
腹横筋、内腹斜筋、横隔膜、骨盤底筋、多裂筋 - 肩関節周辺
棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋、菱形筋 - 股関節周辺
腸腰筋、小殿筋
アウターマッスル(outer muscle)
インナーマッスルの逆。身体の表面に位置する筋肉として表層筋と言われます。大きい筋肉で大きな力を出すことができるため、身体を動かすためになくてはならない存在です。アウターマッスルは外側にあるため、大胸筋、大腿二頭筋など、見た目から筋肉とわかるものが多いです。見た目でわかるため、鍛えたら比較的すぐに効果がわかるため、筋トレのモチベーションにはなります。しかし、アウターマッスルだけ鍛えるのではなく、インナーマッスルとのバランスが重要だと思われます。
- 腹部周辺
腹直筋、外腹斜筋 - 肩関節周辺
三角筋、大胸筋、広背筋、僧帽筋 - 股関節周辺
大殿筋、大腰筋
機能的分類
スタビリティマッスル(stability muscle)とモビリティマッスル(mobility muscle)
インナーマッスル、アウターマッスルと筋肉の構造で分けた分類とは違い、機能で分けた分類です。関節の安定を維持するための筋肉という意味でスタビリティマッスル、身体を動かすための筋肉という意味でモビリティマッスルとなっています。インナーマッスル=スタビリティマッスル、アウターマッスル=モビリティマッスルに近いですが、意味合いからして若干違うところもあります。単なる分類ですので、特にこだわる必要はありませんが、分類としてそういうものがあると覚えておくと良いと思います。世間的には、インナーマッスル、アウターマッスルなどの用語をよく聞きますが、どちらかと言えば、こちらの機能から見た分類の方が案外重要なのかもしれません。
肩関節の筋肉の種類
さて、本題の肩関節の筋肉についてですが、重要な筋肉について記載します。肩関節(肩甲上腕関節)及び肩甲骨にはインナーマッスル、アウターマッスルを含め、大体16種類もの筋肉が付着しています。その中でも特に、肩甲骨と上腕骨を連結している筋肉が重要だと思っています。また、腕側ではなく、体の内側、すなわち肩甲骨と胸郭を連結している筋肉も重要だと思われます。下記に一覧としてまとめました。
動作部分 | No. | 動き(主な役割) | 筋肉 | 英語名 | インナーマッスル | ローテーターカフ | 筋体積top5 |
肩甲上腕関節 | 1 | 水平内転 | 大胸筋 | pectorailis major muscle | 2 | ||
2 | 外転・屈曲 | 三角筋 | deltoid muscle | 1 | |||
3 | 外転 | 棘上筋 | supraspinatus muscle | 〇 | 3 | ||
4 | 外旋 | 棘下筋 | infraspinatus muscle | 〇 | 3 | ||
5 | 伸展・内転・水平外転 | 広背筋 | latissimus dorsi muscle | 4 | |||
6 | 内旋 | 肩甲下筋 | subscapularis muscle | 〇 | 〇 | 3 | |
7 | 屈曲 | 烏口腕筋 | coracobrachialis muscle | 〇 | |||
8 | 伸展 | 大円筋 | teres major muscle | 〇 | 5 | ||
9 | 外旋 | 小円筋 | teres minor muscle | 〇 | 3 | ||
肩甲骨 | 10 | 上方回旋・挙上・下制・内転 | 僧帽筋 | trapezius muscle | 1 | ||
11 | 挙上 | 肩甲挙筋 | levator scapulae muscle | 〇 | 5 | ||
12 | 胸鎖関節安定 | 鎖骨下筋 | subclavius muscle | 〇 | |||
13 | 外転(前進) | 前鋸筋 | serratus anterior muscle | 〇 | 2 | ||
14 | 下制 | 小胸筋 | pectorailis minor muscle | 〇 | 4 | ||
15 | 内転(後退)・下方回旋 | 小菱形筋 | rhomboid minor muscle | 〇 | 3 | ||
16 | 内転(後退)・下方回旋 | 大菱形筋 | rhomboid major muscle | 〇 | 3 |
ローテーターカフ(回旋筋腱板)(rotater cuff)
肩関節の代表的なインナーマッスルとしてはローテーターカフ(回旋筋腱板)があります。肩甲骨に張り付くように位置している以下の4つの筋肉を総称しています。これらは、上腕骨頭を肩甲骨関節窩に引き付ける役割を果たします。
棘上筋(supraspinatus muscle)(No.3)
筋肉の位置をイメージするのが難しいですが、棘上筋は肩甲骨の肩甲骨棘上窩から始まり、肩峰と烏口鎖骨靱帯の下をくぐって上腕骨大結節の上部へ付着し、肩甲骨と上腕骨を連結している筋肉となります。主に外転する際に利用される、機能上重要な筋肉ですが、その構造上、棘上筋の腱は、しばしば肩峰と上腕骨頭に挟まれて損傷することがあります。
棘下筋(infraspinatus muscle)(No.4)
棘下筋は肩甲骨棘下から始まり、上腕骨大結節の中央部へ付着し、主に肩を外旋する際に利用される筋肉になります。
肩甲下筋(subscapularis muscle)(No.6)
肩甲下筋は背中からみて肩甲骨の裏側にべったりと張り付いているような筋肉のイメージです。私の場合は四十肩になるより10年以上前から、肩甲骨の奥が凝っている感覚があったので、もしかしたらここが固まっていたのかもしれません。
小円筋(teres minor muscle)(No.9)
最後に小円筋ですが、棘下筋の下あたりと思っておくくらいでいいと思います。役割も棘下筋と似たようなもので主に外旋する際に利用される筋肉となります。
IST muscle (inter scapulo-thoracic muscles)
肩甲骨にはIST muscle (inter scapulo-thoracic muscles)と呼ばれる肩甲骨と胸郭(thoracic cage)を連結している筋肉があります。胸郭とは胸椎と肋骨と胸骨で構成されている籠状(かごじょう)の骨格で、内臓を守ったり、呼吸運動に関連するなどの役割があります。これらは肩甲骨を胸郭に引き付ける役割を果たし、肩の安定性に貢献しています。
僧帽筋(trapezius muscle)(No.10)
腕を下から引き上げるとともに、肩甲骨を寄せる作用があります。挙上、下制、内転、上方回旋させる助けをします。アウターマッスル。
大菱形筋(rhomboid major muscle )(No.16)
内転(引き寄せる働き)に作用し、小胸筋と協同し、肩甲骨を下方回旋させる作用を持ちます。また肩甲挙筋(けんこうきょきん)とともに肩甲骨を拳上させることにも関与します。インナーマッスル。
小菱形筋(rhomboid minor muscle)(No.15)
小菱形筋は大菱形筋と形状だけでなく働きもほぼ同じ。インナーマッスル。
前鋸筋(serratus anterior muscle)(No.13)
肩甲骨を前に押し出す働き(肩甲骨外転)があります。インナーマッスル。
小胸筋(pectoralis minor muscle)(No.14)
大胸筋の奥にある筋肉で、下制、下方回旋させる作業があります。インナーマッスル。
インナーマッスルが多いですが肩甲骨の安定化にはこれらの筋肉群もバランスよく鍛える必要があると思われます。
肩関節(肩甲上腕関節)の動きについて
肩甲上腕リズム
肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動きの比率のことで、具体的には、肩関節を外転させる時に肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動く角度が2:1の比率になるというものです。簡単にイメージするとすれば「上腕骨」と「肩甲骨」の動きの比率のことです。概ねの比率なので個人差もある、ということは頭に入れておいたほうがいいと思います。
肩関節の動きと肩甲帯(肩甲骨)の動き
肩関節の動きは、肩甲帯(肩甲骨を主とした肩関節周辺機構の総称)の動きと対になっています。言葉で聞くと難しいですが、肩関節(肩甲上腕関節)と肩甲骨の両方の動きが別々だということをイメージしておけばよく、それが全体の理解につながると思います。
肩甲骨の動きを下図に示しましたが、図ではちょっとわかりにくいかもしれません。
イメージしやすい例で言えば、肩関節が外転すれば、肩甲骨は上方回旋します。外転とは腕を横からぐるっと上まで上げる動きになりますので肩甲骨も同じような動き(上方回旋)をすることは理解できると思います。同じように、肩関節の動きに応じて、肩甲骨の動きも以下のように決まります。
No. | 肩関節の動き | 肩甲帯(肩甲骨)の動き |
1 | 屈曲 | 挙上・上方回旋 |
2 | 伸展 | 下制・下方回旋 |
3 | 外転 | 上方回旋 |
4 | 内転 | 下方回旋 |
5 | 外旋 | 内転(後退) |
6 | 内旋 | 外転(前進) |
7 | 水平内転(屈曲) | 外転(前進) |
8 | 水平外転(伸展) | 内転(後退) |
参考文献